朝日新聞社の特別報道部に所属し、シェアハウス投資・スルガ銀行不正融資問題などを取材してきた著者がまとめた一冊。昨今の投資用不動産を巡る業者や銀行の不正と、彼らに食い物にされた顧客の実例を多数あげながら、どこに問題が潜んでいるのかを考えさせてくれます。2019年5月30日に発行されたばかりの新書版。収益不動産購入を含め、あらゆる不動産投資を考えている人は、ぜひ一度読んでみてください。次のふたつの意味で、きっと参考になるはずです。
①不動産投資を勧めてくる業者の危険性がわかる。
②融資がどのように悪用されたか、何を注意すればいいかわかる。
では、レオパレス21を含む、建てさせてサブリースを提案してくる業者についての注意点をみてみましょう。
弁護団(シェアハウスの被害弁護団)が入手したスマートデイズの内部資料によると、不動産業者による土地の仕入れ値と建築費を合わせた平均価格は、1棟あたり7980万円。一方、銀行からの平均融資額は1億3000万円。客への販売価格は融資額と同水準で、利益が大幅に上乗せされていたことがわかる。
つまり、スルガ銀行事件で注目を浴びたシェアハウス販売業者のスマートデイズは、7980万円で仕入れた物件(シェアハウス)を、顧客に1億3000万円で販売していたということになります。その差額は約5000万円。
一流企業のサラリーマンや医師を含む、本来はしっかりしているハズの人たちが、なぜこのような割高物件をつかまされたのか? 巧妙な営業もその一因だと思いますが、それよりもサブリース契約による家賃保証が大きかったといえるでしょう。「大丈夫です。30年間家賃を保証しますから、赤字にはなりません」といわれたことで、周辺の地価や施工単価を調べて入念に検討することなく、安心できるなら買っていいのではないか、と判断してしまったようです。
サブリース契約の問題点は今や有名になりつつありますが、30年保証というのはお題目に過ぎず、契約書をよく読むと小さな文字で「場合によっては契約家賃を変更できる」「場合によっては契約を解除できる」といった文言が書かれているはずです。
しかし、そのような割高な不動産に、銀行はなぜ融資をしたのか? その点についても、本書には具体的な手口が書かれています。
契約書を偽造する、レントロール(賃貸不動産の収支明細)を偽造する、買主に自己資金があるように見せるために預金通帳のコピーを偽造する……そういった手口で不動産業者は銀行の融資担当をだましていた。そんな様子が細かく報告されています。
なかでもスルガ銀行の対応には驚かされます。不動産業者とグルになって、スルガ銀行の担当者が改ざんを指示、あるいはより巧妙なやり方を指南していたのです。空室が多いアパートの利回りをよく見せかけるため、スルガ銀行の担当者が「本日、銀行の審査担当者が現地を確認に行きます」などと連絡。それを受けた不動産業者がアパートの空室にカーテンをつるし、持ち込んだ家電類を動かして電気メーターを回す……。そんな手口で、スルガ銀行の融資担当と不動産業者はタッグを組んでお客さんをはめていった……。それは驚くべき実態であり、普通に考えたら長続きするはずがない自転車操業ですが、それでもスルガ銀行の担当者はその場しのぎの成績を上げようとしたそうです。
さて、そのような不正があったおかげで、金融庁は各銀行に対して融資の審査を厳格化するように指示しました。去年までであれば自己資金ゼロで事業用ローンの融資が通っていたケースでも、5%〜30%の自己資金が要求されるようになりました。融資の審査にかかる時間も長くなっています。何の問題もない優良物件でも融資が通らないケースも出てきており、今後事業用ローンを考えている方はしっかりと対策を考えられた方がよいでしょう。また、セカンドハウスローンも審査が厳格化されているようです。セカンドハウスローンで事業用物件を購入するという不正が多かったため、といわれています。
アパート投資はもちろん、旅館業営業を含む不動産投資、新しい事業用不動産の購入に当たっては、必ず仕入れ値を自分で確認することと、融資に関する注意をおこたらない姿勢が必要といえます。今後は、簡単に融資がつかないことを前提に、シビアな目で事業計画をまとめあげる必要があります。