『残念な相続』(内藤克著・日経プレミアシリーズ)の帯にひかれて購読しました。「『とりあえず母さん名義に』で税金2倍! 今やらないとトラブル必至」という、たいへん気になる帯のコピーほどにはセンセーショナルな本ではなかったのですが、しかし「そうだよね!」と思ったページがあります。ちょっと長めに引用してみます。
不動産の相続評価は一般的に「時価」より低く、有利な金額となっているといわれています。そしてこの時価とは、実は税法で一番難しい概念なのです。
(中略)
ものの値段は需要(買い手)と供給(売り手)の力関係で決まります。この点では不動産の時価とは、売れて初めてわかるもの。そのため「今売るとしたらいくら?」という一種の仮定が時価のベースとなっています。
その通りです。不動産の価格をオフィシャルに算出する専門家は不動産鑑定士と呼ばれる方々ですが、こういった専門家がピタリと時価を算出する……わけではありません。そういう職業ではないと思います。ならば不動産業者(宅建業者)が相場をばっちり読んで、時価をピタリと算出する……というのも不可能です。
日々変化する不動産市場において、我々が利用できるツールは「過去の取引事例」「利回り」といった限られた情報にすぎません。沖縄では、前回の地価公示で全用途平均1割近く地価が上昇していましたが、あれから半年たった現在はどうなのか? さっぱりわかりません。来年の1月に新たな地価公示が発表された時点で「ああ、あの時はこうだったのだろう」といえるわけですが、現在は五里霧中。
というわけですから不動産の時価は「仮説」にすぎません。我々が一生懸命作っている価格査定所の価格も、もちろん「仮説」です。
本書にも、不動産の時価は売ってみないとわからない、という考えが記されていますが、まさにその通りといえるでしょう。
本書は税理士としての実体験を元に、専門家の目から見た相続のポイントを解説しています。サブリース業者がよく口にする「アパートを建てて相続対策を」というトークもばっさり斬り、相続において必要なことをわかりやすく提示してくれます。
ある意味、普通のことしか書いていない印象ではありますが、網羅的な解説は役に立つと思います。「これまであまり相続や税について考えてなかったなぁ」とか「相続について専門家の話を聞いたことがないな」という人は、読んでみるとよいと思います。
ただ、校正がザルで誤字脱字が多いのが残念。同じ新書でも中央公論社や新潮社などと比べて、出版物としてのクオリティーはやや落ちるような気がします。
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