某家電メーカーの名前を冠した不動産業者(以下S社)が「売主側にたち、両手仲介はしない」とうたって創業したときは「ちょっとイイんじゃないの!」と思ったものです。が、よく考えてみると、片手仲介しかしないという業態には、意外と効率の悪い面が潜んでいるように思えてきました。
まずは、両手仲介(両手取引)と片手仲介(片手取引)の違いをみておきましょう。
図のように、2社(ここではA不動産とB不動産)が売主と買主それぞれの仲介を行う(共同仲介)のが「片手」。A社は売主、B社は買主の片方から手数料をもらう形態です。
上図のA社・B社両方の立場を兼ねて、1社の不動産業者が売主と買主双方の仲介を行うのが「両手」です。両方から手数料をもらえるから両手。収入は倍になるので、大手業者などでは両手売買にこだわるそうです。
S社は、不動産売却を裁判になぞらえて「両手取引は、1社の不動産業者が検察と弁護士の両方の役割をするようなもの」と表現しています。
ですが、不動産売買は裁判ではありません。売り手と買い手の双方が納得するハッピーな契約は、世の中にたくさん見受けられます。一方裁判で双方が納得することは、あんまりないと思うんですよね。
であれば、両手取引=悪と切り捨ててしまい、両手での契約をしないということは、かえって効率の悪化を招いているのではないでしょうか?
ここで、物元(ブツモト)の強みについて考えましょう。
物元業者とは、売主から売却依頼を受けている業者のことです。たとえばS社は常に物元です。一方、買いたい人を見つけてくる業者は、客付業者と呼ばれます。
その不動産に詳しいのは?
物元業者VS客付業者、その不動産に詳しいのはどちらでしょうか?
間違いなく物元業者です。「境界はこの杭でいいの?」と聞かれても、「目の前の道路幅員、4m以上ある?」と聞かれても、あるいは「お隣はどんな人が住んでいるの?」と聞かれても、物元業者ならその場で返答できます。お客さんも安心できるでしょう。
でも、客付業者だとそうはいきません。「固定資産税、いくら?」と尋ねられた場合、物件資料に載っていない場合がほとんどですから、「すみません、調べておきます」という返答にならざるを得ないでしょう。「む? 大丈夫かな?」という印象を与えかねません。
つまり、物元の営業マンは物件をよく知っており、その説明には説得力があるのです。
もし物元営業マンと客付け業者の8人の営業マンで打線を組んだら、物元の営業マンが必ず四番です。だって、不動産査定の段階からこの物件を見続けてきて、売主さんとのリレーションも最強なわけですから、一番この物件を売るための知識があるのです。
そう考えると片手専業という業態は、あえて四番打者の長打力を封印するという非効率的な側面をもっているといえるでしょう。
不動産売却はビジネスであり正義を求める場ではありません。そこが、正義を求める法廷との違いで、白黒つけたりはしなくてもヨイわけです。買う人を見つければいいだけなんですよね。
もちろん両手にこだわるより片手にこだわる方がずっといいわけで、その意味でS社はクリーンでよいと思うのですが、あと一歩評判があがらないのは四番打者を封印しているそのポリシーにあるような気がします。
個人的に最良と思うのは「両手取引にぜんぜんこだわらないけど、自社の営業マンもちゃんと営業するよ」というスタイル。1番バッターから9番バッターまで、全員が勝利を目指すスタイルこそ、もっとも効率的ですよね。