書評『不動産屋にだまされるな 「家あまり」時代の売買戦略』
不動産屋をかなり敵視している一冊ですが、読む価値アリだと思います。不動産を売買する「市場」におけるパワーバランスがわかりやすく描かれているからです。著者は不動産市場と株式市場を比較し、インサイダー取引が厳しく規制されている株式市場に比べて、不動産市場では不動産業者自身が土地建物を購入・販売できる点がエンドユーザーにとって不利であると指摘しています。
ここはポイントです。
エンドユーザーのみなさんが不動産を購入する場合(あるいは売却する場合でも)、不動産屋はライバルです。
「市場の片隅に誰も気づかない超お買い得物件があるのでは?」と探している方もいるでしょう。実際、そんな物件は時々見つかります。
しかし、お買い得物件を見つけた不動産屋は自分で購入してしまい、適正価格にしてから市場に流します。会社は利潤を追求しなければいけませんから、それは当然のことともいえますが、これではエンドユーザーが本当のお買い得物件を手にすることは困難です。
本書はそういった状況を詳しく解説しています。いわばエンドユーザーと不動産屋の情報格差というか、情報の非対称性をこれでもかと描写して、不動産取引の危険性をえぐり出す。なかなか鋭い一冊です。
ただ、この本では「それではどうすればいいのか?」という解決策はほとんど提示されていません。その意味では、残念な一冊でもあります。
ではどうすればいいのか?
本稿を書いている私の意見です。
「不動産を探す前に不動産屋を探す」という当然の鉄則を貫いてください。大手不動産業者の営業マンは全員重いノルマを背負っていますから、彼らを信用することは避けましょう。派手な広告を打っている会社も要注意です。「稼ぎたいから多大な広告費をかけて宣伝している」わけですから、その会社を訪問するのは自ら死地に赴くようなものです。
よくよく探すと、マイペースで、自分が好きなように営業している業者が見つかるはずです。彼らの中から、信用できそうな人物を探し出しましょう。
最近の事例をご紹介します。
数年前、沖縄かりゆし不動産を訪れたAさんは、内地から沖縄に来るたびに連絡をくれて「飲みましょう」と私を誘ってくれました。かれこれ2~3年。こうなるとAさんはお客さんというより半分友達です。
そして半年ほど前のこと、Aさんは私に「そろそろ土地を購入したい」と相談してきました。私としてはすでにAさんの希望や予算を把握していますから、すぐに裁判所の競売物件として公告されている、北部の分譲地内の土地を推奨しました。競売の手ほどきもしながらAさんの土地購入をサポートし、無事落札。
結局Aさんは市場価格の三分の一から半額程度で、オーシャンビューのセカンドハウス用地を購入できています。
不動産屋にはこういうつきあい方もある、という例です。
不動産屋の言いなりになるのではなく、主体的に「うまく使ってやろう」と思えば、本書が述べている情報の非対称性を乗り越えることも可能になります。
そういった具体例は書かれていませんが、本書は不動産屋とのつきあいを考えるきっかけにはなりそうです。
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